カカシさんは純粋な人だ。
写輪眼のカカシとかコピー忍者とか、二つ名を持っていたりビンゴブックにのっていたりだし、あの顔のほとんどを隠した風体も怪しいしで、世間では随分と恐ろしげな人だと思われているが、そんなことはない。口布を取った素顔はびっくりするくらい美形で、その上気が優しい。ずっと戦場育ちだったせいか、世間知らずで子供のように無邪気なところもある。
ひょんなきっかけでこの高名な上忍に愛を告白され恋人になったオレだが、大人の男だとばかり思っていたこの人の無邪気さにやられて今じゃすっかりメロメロだ。
あ、そろそろ帰ってくる時刻かな。今日はいい魚があったのであの人の好きな煮付けにした。あの人の嬉しそうな顔を見るのがオレの生き甲斐だ。
「たっだいま〜」
ほら、帰ってきた。口布を下ろしてニコニコしている。お帰りなさいのちゅ〜を期待してるな。
「おかえりなさい。」
期待に応えてオレは軽く口づけてあげる。へにょ、と嬉しそうなカカシさん、あぁ、可愛いなぁ。
「先に飯にしますか?もう食べられますよ。」
「あのねあのね、イルカ先生、それよりね。」
なんだかやたら興奮している。なにか新しい知識を仕入れたのか?
世事に疎いこの人は、里に常駐するようになって随分と驚くことが多いらしい。一つ新しいことを覚えると、こうして嬉しそうにオレに報告してくる。
まぁ、そこがまた可愛いんだが、内心ニヤけそうになるのを必死で堪えて、オレは教師の顔をした。こういうときは先生面したほうがカカシさんは喜んでくれる。
「どうしたんですか?」
「あのね、先生、今日はエイプリルフールなんですよ。知ってました?」
く〜〜、たまらん。エイプリールフールごときでこの盛り上がり様、可愛いすぎて鼻血が出る。
「あ、そう言えば今日は4月1日ですか。エイプリルフールですね。」
「そーなんですよ、それで今日はオレ、4と4の倍数はアホになって、1のつく数字でイケメンになります。」
…………はい?
「じゃいきますよ〜、イルカ先生。1っ」
カカシさんは突然両手を交差させて自分の肩を抱いたイケメンポーズをとった。いや、カカシさん、アンタはたしかにイケメンだが、だけどしかし何がいったいっ
「2、3、4〜」
今度は両手をダラリとたらしてアホ面のまま脱力する。
「5、6、7、8〜、9、10、11っ」
アホの後、またイケメンポーズになった。っつかそれって
「ちょっちょっとカカシさん、いったい。」
慌てて遮るオレにカカシさんはきょとんとした。
「だって今日はエイプリルフールなんでしょ?」
「そっそうですが、だからそれはいったい何なんです。」
カカシさんが目をぱちくりさせる。
「アスマと紅がね、エイプリルフールは恋人の前でこれをやるのが習わしなんだって。」
そこかーーーーっ。
「恋人にやってみせるとその愛は永遠になるんでしょ?オレ随分練習したんですよ、これって結構難しくて。」
「カカカカカシさんっ。練習ってまさかアンタ、他の誰かの前でっ…」
「あ、それは大丈夫です。絶対他の人に見られちゃダメなんですよ、おまじないの効力が失せるからって紅が。」
そーゆー気は使ってくれたわけか、ほぅ〜
これだからこの人、ほっとけないんだ。こんな純粋で可愛い人、オレが守ってやらなきゃ誰が守る。オレはカカシさんの手をぎゅっと握ると、にっこり笑った。
「とりあえず手を洗ってきてください。飯食いながらゆっくり説明しますから。」
この人、誰が何と言おうと一生オレが面倒みよう。もう絶対この人より先に逝けない。明日からの鍛錬のメニューとバランスのとれた献立をもう一度検討しなおさにゃならんな。
うし、と決意の拳を握り、オレの可愛い人がすぐに夕食を食べられるようテーブルを整えた。
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